ルーツをめぐる旅

「なんだろう、これ」

2007年、僕が初めて飲んだスペシャルティコーヒーは浅煎りのケニアだった。

カップの中の赫く透き通った液体は未知の体験を僕にもたらし、無造作に散らばっていたあらゆる興味の全てをそのカップの中に惹きつけた。

2年後。それまで将来の夢に書いたこともなかったコーヒー屋に僕はなり、サプライチェーンの水脈を消費者から提供者へとのぼった。そこから見えたものは自然の偉大さと人の強さ、そして美味しいの一言では括りきれないたくさんの物語。

コーヒーそのものよりも、コーヒーを取り巻くさまざまなドラマが僕を一層惹きつける。ごく自然な流れで産地に行くまで、そう時間はかからなかった。

はじめての産地訪問は中米だった。何度もインターネットで見たコーヒー生産者本人が目の前にいる。まるで有名人に会ったかのようで、帰国したあと、撮りすぎたたくさんの写真を見返しながら、なにも学ばなかった自分の行動をとても後悔した。

それからは毎年同じ生産者を訪ね、彼らの人生そのものを自分のそれと重ねながら、できる限り共同体でいることを目指している。

僕のルーツになったアフリカのコーヒー。力強く野生的、唯一無二の個性を生み出す大地のパワーに惹かれつつも、これまで行ったことはなかった。

時折お店で提供しては、憧れだけが長年積み重なっていた。

そして2022年。TYPICA Labを通じて巡ってきたはじめての機会。この旅がひとつのマイルストーンになることは間違いないだろう。

僕にとっての聖地に足を踏み入れることを実現してくれたTYPICAに感謝しつつ、いよいよ始まる新しい旅の準備をしようと思う。