当たり前の日常を明るくするために

2020年からの2年半は、世界中の人々にとって一生忘れられない日々になるだろうし、もちろん僕にとっても例外ではない。ある日突然やってきた厄災は、瞬く間に当たり前の日常を過去の物にしてしまった。

特に、僕らのようなカフェ・飲食店は、自分たちの生業の在り方を考えざるを得ない日々だったと思う。外出自粛や営業時間の短縮要請により街は静まり返って、なにかしようにも「なにもしないこと」こそが最善なのでは、という考えにすら及んだ。

思い返せば、そんな無力感を前にも感じたことがあった。2011年3月のことだ。当時、自分はまだ大学生で文字通り何者でもなく、何年先までも教科書に載るような出来事を前に、本当に無力だった。

もちろんあのときと状況は違うものの、つめたくて暗い檻に入れられたような息苦しさは同じだったと思う。

幸いにも今の自分にはロースターという仕事があり、店内飲食を制限したり、土日はお店を閉めたりしながら、オンラインショップを中心に細々と営業を続けていた。

あるとき、コーヒー豆の注文メールをチェックしていると、備考欄にこんなことが書いてあった。

「美味しいコーヒーで気持ちが明るくなりました。大変な時期なのに営業を続けてくれてありがとうございます!」

この一言を見たとき、強く込み上げてくるものを感じた。自分が焙煎して届けたコーヒーで、気持ちが救われた人がいる。自分の仕事はただ単にコーヒー豆を焼くことではなく、誰かの当たり前の日常を支えることなんだ。つめたく冷え切った身体に、温かい血が巡るような気がした。

2011年と今で、自分の本質がそこまで大きく変わったとは思わない。違うのは、スペシャルティコーヒーと出会っているかどうかだ。これを読んでいるコーヒーラバーならばきっとわかってくれると思うが、コーヒーには特別な力がある。生活の中に当たり前にありながら、感動するようなカラフルな風味があり、人と人を繋ぐことができる。

自分はコーヒーマンとしてまだまだ未熟だが、スペシャルティコーヒーというもののそうした魅力を人に伝えて、少しでも誰かの役に立てるようになったことは、成長したところと言っていいと思う。

2023年3月、TYPICA Labのメンバーと共にグアテマラ・エルサルバドルへ向かう。僕にとって初めての生産国。スペシャルティコーヒーの最上流を肌で感じることで、きっと得るものは大きいだろうし、Labの他のメンバーと話をすることも楽しみだ。そして何より、自分自身が成長することで、お客様やTHE COFFEESHOPのスタッフへ還元できることが何よりも嬉しい。

誰かにとっての当たり前の日常をもっと明るくするために、ポジティブなエネルギーをたくさん抱えて帰ってくるので、楽しみに待っていてほしい。