ウェルカムソングと垣間見える現実
翌日。僕らの車は伝統的な家屋が並ぶ風景を横目にシダマ地域を走っていた。
Moplaco社が運営・提携するふたつのウォッシングステーションを見学するためだ。
標高2,000mを越える場所での生活にも慣れたが、走るとそこそこ息が切れる。
そんな場所での道中でも、どこから来てどこに向かうのかわからないような場所で人とすれ違う。
中米でも同じような光景に出会うことが多々あり、その度に道具に慣れ、かえって行動範囲が狭くなってしまっている自分に気づく。
健康な足があればどこまでも行けるはずなのに。
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ひとつめのウォッシングステーションはベンサモ(homasho)と呼ばれていた。
数年前からMoplaco社が提携している場所で、自社運営と提携での運営をうまく使い分けながら広いエリアのコーヒー豆をカバーしつつ、エチオピアのコーヒー全体へ影響を与えているMoplaco社の方針からは、経営として学ぶ点がたくさんあった。
自分たちがこの国を背負っている自覚を持ち、生産者や自然、コーヒーに関わるすべてにとっての良い循環をうむためにエレアナさんたちは動いている。その信念や情熱、バックグラウンドを消費者に伝える術は、はたして味わいだけなのだろうか。
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ふたつめのウォッシングステーションはKokosaと呼ばれていた。ここはMoplacoの自社運営だ。
到着するとたくさんの女性が歌とダンスで迎えてくれた。エレアナさん曰く、この地域の伝統的な歌だそうだ。
大きく遠くまで通る声で、手を叩き大地を蹴りながらたくさんの歌を歌ってくれた。言葉はわからないが、どんな気持ちを伝えたいのかは明確に理解できた気がした。
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後日、エレアナさんに「この旅での一番の思い出はなに?」と聞かれた際、とっさに出た回答がこのシーンだった。
きっと言語化できないスピリチュアルな部分に触れ、無意識に脳裏に焼き付いたのだと思う。
帰国してしばらく経った今でもあの時のメロディーが時折フラッシュバックする。
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ステーションでさまざまな過程を見学させてもらい、奥の建屋でコーヒーセレモニーによる歓迎を受けた。
テーブルに並んだジャガイモやパッションフルーツ、壺の上で塗り固められたバターのようなもの。エチオピア伝統の蜂蜜を使ったお酒と一緒に楽しんだ。
何度か経験があるが、コーヒー生産地で飲むコーヒーは味以外にたくさんの体験をさせてくれる。この一杯を育んだ自然を前に、感謝と共にいただいた。
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雨が降り出したため、急いで山を降りた。
車の後ろを無邪気に走ってついてくるたくさんの子どもたちに癒された一方で、すれ違いざまに胸元を強調し、(私を買ってほしい)とアピールする若い女性にも会った。
海外から訪ねてくる僕らの存在は単にコーヒーのバイヤーとしてだけでなく、現地の人にとってさまざまな意味を持つのだと感じた。
彼らは生き抜くために生きているのだ。
雨が上がり、牛が草を食む牧歌的な風景を見ながら、いろんなことを考えた。