コーヒーの神様がいるとしたら

最後の活動日となるこの日、エレアナさんと合流してMoplaco社のオフィスを訪問した。
オフィスの横には消費国でも成り立つような素晴らしい空間のカフェとシェアオフィスが併設されていて、ハンバーガーやサラダ、コーヒーの果肉cascaraを使ったシグネチャードリンクなど、まるで遠くにワープしたような感覚だった。

.

エレアナさんの案内でオフィスを見学させてもらったとき、ふと「コーヒーに神様がいたら、、」と話し始めた。

Moplaco社と日本との繋がりは深く、福岡の珈琲美美の森光さんを抜きにその歴史は語れない。
エレアナさんが20年以上前、Hararという地域に森光さんと行ったときのこと。
車が通らないので馬に乗り、宿がないので地域住人の家に泊まり、数日かけてたどり着くハラル地域への道中、森光さんが「コーヒーの神を信じるか」とエレアナさんに尋ねたという。

当時、エレアナさんは信じていないと答えたそうだが、森光さんは私は信じると力強く話してくれたそうだ。

それから時が経ち、今、僕たちがエチオピアの地で彼女に出会ったこの出来事を、彼女は「コーヒーの神様が引き合わせてくれた」と涙を流しながら口にした。
森光さんが彼女に遺した言葉の真意を、彼女は長い時間の中で体感し、それを今度は僕らに託そうとしてくれているように思えた。

.

その後、Moplaco社が用意してくれた45種類のサンプルをカッピングさせてもらうことができた。
カッピングの前、僕たちの出会いを祝福し旅の平和を祈る祈祷が設けられていた。現地の聖職者たちによる祈りが捧げられたあと、ずらりと並べられたサンプルを評価していく。

前日のWete Ambela社でのカッピングで学んだ韓国ロースターの姿を意識して臨んだカッピングであったが、蓋を開けてみると普段のカッピングと変えることはできなかった。意識を区別する日頃からのトレーニングが必要になるのだろう。
それでもこのロット数のカッピングは地域ごとの味わいの違いや試験的・挑戦的なプロセスのコーヒーを比較するとても良い学びの時間となった。

.

最後の最後まで、エレアナさんは僕たちと一緒に過ごし、たくさんの話をしてくれた。

日々たくさんのバイヤーが彼女を訪ねてやってくる。それでもこれだけの時間を僕たちに費やしてくれたのは、TYPICAへの恩返しの意味も大きいだろう。
TYPICAというプラットフォームが世界中のコーヒー生産者たちに大きなインパクトを与え、その恩が人対人で巡っていく、大きなうねりのようなものを感じた。

.

コーヒーの神様がいるとしたら、きっと人と人とを良いかたちでつなぎ、誰もが誰かのために誇りを持ってコーヒーに関われる未来を作るのだろうと思う。